東京地方裁判所 昭和40年(ワ)4355号 判決 1966年1月27日
原告 中邑永彬
右訴訟代理人弁護士 萩原明
同 萩原克虎
被告 福徳商事株式会社
右代表者代表取締役 今関禧久平
右訴訟代理人弁護士 大竹昭三
主文
原告の被告に対する左記金二〇万円の貸金債務の内昭和三九年一〇月三〇日弁済にかかる金五万円を控除した残金拾五万円の債務は存在しないことを確認する。
記
一、貸金弐拾万円
一、貸付日 昭和三六年二月一日もしくは同年一月三一日
一、利息 月六分の定めあるもの、
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを七分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は
一、原告の被告に対する昭和三六年二月一日付消費貸借契約に基く金二〇万円の債務のうち金一五〇、〇〇〇円の債務は存在しないことを確認する。
二、被告は原告に対し、金一一九、〇〇〇円及びこれに対する昭和四〇年三月一日以降支払ずみに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
三、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに第二項につき仮執行の宣言を求め、その請求原因として、
一、原告は金融業を営む被告より昭和三六年二月一日金二〇万円を、次いで同年七月一日金三万円をいずれも利息月六分の約で借りうけた。
二、原告は昭和三七年二月末に被告に対し、右三万円の分について元金全額を、また昭和三九年一〇月三〇日右二〇万円の分について元金の内五万円を支払った他、昭和三六年二月一日より同四〇年二月末日迄に、別紙計算書のとおり、被告に対し、利息金合計四三二、八〇五円を支払った。しかして、原告が利息の弁済として支払った右金額のうち利息制限法所定の制限超過部分についてはその指定は無効であって、この部分は順次元本の弁済に充当すべきであるから、別紙の計算のとおり右貸金の元利金債務は昭和三八年二月末日をもって弁済によりすべて消滅した。
三、従って右期日以降昭和四〇年二月末日までに支払った利息制限法所定内の利息金合計六万九、〇〇〇円及び昭和三九年一〇月末日に支払った前記元本弁済金五万円は結局債務がないのに支払ったことになるので、被告は右合計金一一九、〇〇〇円を不当に利得し、原告は同額の損失を受けたわけである。
四、しかるに被告は前記二〇万円の分について、なお一五万円の債務が残存するものとして、原告にこれを請求するので、被告に対し、その不存在の確認を求めると共に、前記不当利得金一一九、〇〇〇円の返還と、これに対する、被告が悪意になったのちの昭和四〇年三月一日から支払ずみに至るまで、商法所定の年六分の割合による利息金の支払を求める。
と述べ、立証として甲第一号証を提出した。
被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、
一、請求原因第一項中、金二〇万円を被告が原告に対し、金二〇万円を貸与したのは昭和三六年一月三一日であり、金三万円を貸与したのは昭和三六年四月一六日である。その余の事実は認める。
二、同第二、三項中、原告が支払ったと主張する利息の金額及びその合計額金四三二、八〇五円が原告主張の月の利息として各支払われたこと、並びに、元金の弁済として昭和三七年二月末日三万円の分につき金三〇、〇〇〇円、同三九年一〇月三〇日二〇万円の分につき金五〇、〇〇〇円の返済を受けたことは認めるが、原告のその余の法律上の主張については争う。
三、原告が被告に対し、利息と指定して支払ったものは、利息制限法の制限を超過する金額であっても、任意に利息として支払った以上は、その超過部分を元本に充当すべきでないから、前記二〇万円の貸金債権はなお元本金一五〇、〇〇〇円について残存するものである。
四、仮りに、同法の制限超過部分が元本に充当されるとしても同法第一条第四条、民法第七〇五条の法意により、すでに支払った利息金、及び元本の返還は求め得ないものと解すべきであるから、原告の請求中金員の支払を求める部分は失当である。
と述べ、甲第一号証の成立を認めた。
理由
原告主張事実は金銭貸借の日時の点をのぞき、いずれも当事者間に争いがない。
金銭消費貸借上の債務者が利息制限法所定の制限をこえる利息を任意に支払ったときは、右制限をこえる部分は民法四九一条により残存元本に充当されるものと解すべきである。従って本件において、原告が被告に対し支払った利息のうち同法の制限(金三万円の分について年二割、金二〇万円の分について年一割八分)超過部分は順次、その残存元本に弁済充当すべきであるから、貸借の日時について争いがあるが、それが被告主張の日であったとしても、本件の二口の貸金は、すでに元利金とも完済されていることは計算上明白である。
従って、原告主張の金二〇万円の本件貸金のうち弁済ずみの五万円を控除した残債務は既に存在しないものと認められる。
ところで、さらに原告は、このような場合に、右計算上の元本完済の時点の後に支払われた利息制限法所定の制限内の利息合計六万九〇〇〇円及び元本の弁済として支払われた前記金五万円は、不当利得として返還を求めうると主張する。
しかし、原告主張の右金員のうちの金五万円が支払われた昭和三九年一〇月三〇日までの間に、本件の金二〇万円の貸金の元金について、原告または被告の指定による弁済の充当がなされた金額は全くなかったことは原告の自ら主張するところであるから、右貸金の元金の内入として支払われた右金五万円は、この指定によって元金の弁済に充当されこの限度で元金債務を消滅せしめているわけであるから、不当利得に該当しないことは明かであるし、原告主張のその余の金額、すなわち、借主が利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を任意に支払い、右制限をこえる部分が民法第四九一条により残存元本の弁済に充当された結果、元本が完済されたとみられる時点の後に支払われた利息(損害金)のうち、同法所定の制限内の金額は、同法第一条二項、第四条二項の法意に照し、やはり借主において返還を請求しえないものと解するのを相当とする。
よって、原告の本訴請求中債務不存在確認を求める部分は正当として認容(本件金二〇万円の貸借の日について争があるが、そのちがいはわずかに一日で、被告もこの債務の同一性を争う趣旨でないことは明かであるし、被告も別にこの日の点に拘泥してはいないから、債務を特定するための貸付日の表示は「昭和三六年二月一日又は同年一月三一日」とする)し、その余の請求は爾余の点につき判断するまでもなく失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松永信和)